3000文字チャレ『成長』


仕事が終わり家に帰ると、
愛しの君が出迎えてくれた。

僕達は結婚して1週間。
新婚生活の真っ只中。

「おかえりなさい!夕食、出来てるわよ」

笑顔でそう言う君を見て、
僕はこの上ない幸せを感じた。

キッチンに行くと温かな食事が置いてある。

僕は手を合わせ、君の創った愛を頂く。

「ねえ、美味しい?」

君は僕に微笑みかけながらそう聞いた。

「もちろんさ」

君の手料理を食べながら、
僕も満面の笑みで答える。

とても暖かくて、
穏やかな時間が流れていくのを感じる。

「ねえ、私の事好き?」

君は唐突に聞いてきた。

「もちろんさ」

先程と同じ様に僕は答える。

「私も貴方の事好きよ」

君の笑顔と甘い言葉に思わず顔がにやけた。



「貴方の事、
食べちゃいたいくらい、好き」



ーーー始まる。

君はナイフを片手に持っていた。

僕は椅子から飛び上がり戦闘体制を取る。

君が僕の肉を狙っている。
いつもの風景、
いつものやり取りに安堵する。

変わらない日常ってやつかな。
こんな時間をずっと大切にしたい。

「今日こそはその肉、頂くわ!」

君はそう叫ぶと、
テーブルに置いてあった胡椒の瓶の蓋を取り、
僕めがけて撒き散らした。

目潰しか。

だが僕は事前に用意しておいたガスマスクを素早く装着し、
胡椒の攻撃から身を守った。

「昨日Amazonからガスマスクが届いたのを見せただろう?
詰めが甘いんじゃないかい?」

僕は君の短所を指摘しつつ、
武器を取る為にキッチンシンクの陰に転がり込んだ。

あまり人の短所を指摘するのは気分の良いものではないけど、
短所を直し長所を伸ばし、
お互いに成長し尊敬し合う事こそ、
夫婦として理想の形だと思っている。

「あと食べ物を粗末にするのは感心しないかな」

キッチンシンクの陰に隠れながら、
食べ物は決して無駄にしてはいけないと言う道徳を伝えた。

「そうね、ごめんなさい。
次からは気を付けるわ」

君はいつだって素直だ。
そんな君の素直さに僕は惹かれている。

シンクの引き出しには、
ヤフーショッピングで買ったモデルガンを改造した麻酔銃を隠してある。

もちろん銃刀法違反にならない様に免許も取ってある。
僕はそう言う所はきちんとするタイプだ。

もし無許可で所持していたらどうなる?
当然それは犯罪だ。

夫婦関係どころか、
親戚関係にも亀裂が入るだろう。

たかが麻酔銃の為に、
家族が崩壊するなんて馬鹿げてる。

麻酔銃を隠してある引き出しに近付き開けようとしたその時、
引き出しから竹槍が飛び出してきた。

「うおお!マジかよ!!」

間一髪で竹槍を避け、
臨戦態勢を整える。

「そこに麻酔銃がある事は知っていたわ」

事前に調べていた上に、
こんな罠を仕掛けるなんて、
君はなんて知的なんだ。

「とても知的な罠だ。素敵だよ!」

「そう言ってもらえて嬉しいわ。
あなたの反射神経も素敵よ!」

その言葉に僕も嬉しくなる。
お互いを褒め合う事も良い夫婦関係を保つ秘訣だと思っている。

「ちなみにモデルガンをそんな風に改造するのは違法よ」

「え、そうなの?」

知らなかった。
君の知識の多さにはいつも驚かされる。

「教えてくれてありがとう。
相変わらず博識だな」

反省しなくては。
法に触れる事はしてはならない。
家族の崩壊に繋がってしまう。

深く反省をしていると、
突如、君の気配が消えた。

「どうしたんだい?かくれんぼかな?」

シン…とした静寂。

なんてこった。
同じ屋根の下に暮らしながら、
君を見失うなんて、
夫として失格だな。

これからはもっと気配を察知する能力を磨かなくては。

自分の足りない部分を痛感しながら、
ほふく前進で移動しつつ、
食器棚に隠してあった防刃ベストを身に纏う。

今までの経験から、
君がナイフを手にしている時、
狙うのは心臓だ。

今までの経験……か。
思えば僕達も色々な時間を共有してきたんだな。

頬の肉を食われかけたり、
太ももの肉を食われかけたり、
どれもかけがえの無い思い出だ。

その度に僕らは信頼と愛を築き上げてきたんだ。

思い出に浸りつつ、
心臓を確実に守る為に、
防刃ベストの上から鉄製のチェストプレートも付ける。

Amazonもヤフーショッピングも売り切れだったので、
楽天で買ったプレートだ。

おかげで楽天ポイントが貯まったし、
今度ポイントを使って旅行にでも行こう。

万全の体制で君を探す為に立ち上がったその瞬間、
どこからかナイフが飛んできた。

避けられない事も無いが、
あえて受けて立つ。

心臓めがけて真っ直ぐに飛んできたナイフは、
プレートに当たり、
キンッ、と言う甲高い音と共に弾かれた。

「ナイスコントロール!
真っ直ぐ心臓を狙ってくると信じてたよ!」

夫婦関係は信頼の上に成り立つと思っている。
ナイフを避けなかったのは、
どんな事があっても僕は君を信じてる事を伝えたかったからだ。

けれど返事は無かった。
会話はお互いのコミニケーションなのに、
無視だなんて寂しいじゃないか。

無視……いや、君が僕を無視するなんて事はありえない。

これには何か意味があるはずだ。

僕は考える。
いまだ気配の無い君がどこに居るのか。

僕なら分かるはずだ。
君を愛している僕なら、
君の考えを読めるはずだ。

……そうか、これは君からのメッセージだな。

"自分を見つけて欲しい"と言うメッセージ。

例え離れ離れになっても、
いつも自分の事を考え、
想って欲しいと言うメッセージ。

まったく、寂しがり屋め。
そう言う所は付き合ってる時から変わってないな。

寂しがり屋な君が向かう場所……。

「そこだね」

僕はテーブルを踏み台にして天井に向かって跳ぶ。

と見せかけて着地と同時に床板を剥がした。

「見つけた」

床下に隠れる君を見つけ、
微笑みながら頭を撫でる。

「見つけてくれてありがとう。
相変わらずサプライズが得意ね。
ドキドキしちゃった」

天井に跳び、外れと見せかけ君を見つける。
がっかりさせると思わせて喜ばすと言う古典的なサプライズだが、
効果てきめんだった様だ。

「最初から分かってたよ、君がここに居る…こ……と?」

突然、身体が痺れてきた。
これはいったい……。

「髪の毛に毒を塗っておいたの。驚いた?」

今までにない新しい発想だ。

僕には無いその感性、
君は本当に魅力だらけの女性だ。

「き、君の発想力にはとても、驚かされるよ……。
素晴らしいエンターテイナー……だね」

「ふふ、ありがと」

少し照れながら笑う君の顔は、
なんとも言えずキュートだった。

「いつもサプライズを貰ってばかりじゃ悪いもの」

優しいな。
ちゃんとお返しが出来る優しさも、
君の魅力のひとつだ。

「さあ、そのガスマスクを取ってちょうだい。
さっきから愛しい人の顔が見られなくて哀しいの」

「ああ…すぐにでも取りたいけど……
これにはちゃんと、意味があるんだ……」

「意味?どういう事?」

「ま、麻酔銃だけが切り札だと思っ…たかい?
切り札ってのは、常に、2つ以上持っておくものなんだよ」

痺れでろれつが回らないのに、
思わず自分の用意周到さをひけらかしてしまった。

承認欲求と言うやつだろうか。
まだまだ僕も子供だな。

力を振り絞り、
君が隠れていた場所の近くに配置していたスイッチを押すと、
天井が勢いよく開き、催眠ガスが噴出される。

「な……っ!
最初からこの為にガスマスクを装着したって言うの!?
な、なんて計画性のある人……!
好き……!!」

君は敗北を感じながらも僕に愛を伝えてくれた。



催眠ガスによって眠る君はとても穏やかな顔をしている。

この寝顔を見る度に、
僕は君を愛しいと思ってしまう。

この寝顔を見るのは今日で3回目だ。
寝起きと朝食の時に肩の肉を食われかけたので手刀で気絶させた。

これからもきっと、
決して緩くはない人生と言う名の坂道を、
二人で登っていくのだろう。

死が二人を分かつまで、
今日みたいに君と手を取り合って、
高みを目指して、
いつか歩んできた道を振り返った時、
素晴らしい景色が見える様、
切磋琢磨していきたいと思う。

「愛してるよ」

僕はガスマスクを外し、
君の寝顔に口付けをし、
身体の痺れが取れた後に胡椒まみれの部屋をジャパネットで買ったダイソンの掃除機で掃除しようと思った。

"3000文字チャレ『成長』" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント